最近では、相続税の基礎控除額の縮小や高齢化といったことから、相続についての関心が高まっているように感じます。そんな、相続に関する生前対策としてまず思いつくのが「遺言」なのではないでしょうか。一般的には、遺言は「ゆいごん」と発音しますが、法的には「いごん」と発音します。

その遺言なんですが、実は種類がたくさんあります。自筆証書遺言と公正証書遺言以外はあまり目にすることがないですが、せっかくなので解説してみたいと思います。

普通の方式による遺言

普通の方式による遺言には、自筆証書遺言公正証書遺言秘密証書遺言があります。一般的な遺言といえばこの普通の方式の遺言なのではないでしょうか。

自筆証書遺言

自筆証書遺言とは、遺言をする人が、その全文、日付および氏名を自分で書き、印鑑を押した遺言のことをいいます。よくテレビに出てくるような「遺言状」などと書いてあるものをイメージしていただくと分かりやすいかもしれません。

一番お手軽に作成できる遺言書だとは思いますが、自分で全部書かないといけません。代筆もだめです。なので、自分で字を書くことが難しくなってきた高齢者の方などは作成が難しいのではないでしょうか。

公正証書遺言

公正証書遺言とは、公証人に作ってもらう遺言です。かなり簡単に表現してしまいましたが、細かい解説は次回以降にしたいと思います。

特徴として、公証人が作成するので作成方法が間違っていて遺言が無効になるなんてことがありえません。また、遺言のデータが公証役場に残るので失くしてしまったり、燃やしてしまって遺言が消滅するなんて危険がありません。

最も安全な遺言といえるでしょう。

秘密証書遺言

秘密証書遺言とは、作成した遺言書を封筒に入れて封をし、公証人と証人2人以上に自分の遺言書である旨を伝えて全員に署名・押印をしてもらうことで成立する遺言です。厳密な要件はもう少し細かいですが、この程度の説明で許してください。

この遺言の特徴は、内容をだれにも知られずに作成することができ、かつ自筆証書遺言よりは確実性があるところです。

また、自筆証書遺言とは異なり、ワープロ打ちでも代筆でも作成が可能なことです。

しかし、作成方法がめんどくさいことや、どうせ公証人の立会いが必要であるなら公正証書遺言にした方がいいので、ほかの普通方式による遺言と比べて利用は少ないです。

ちなみに、秘密証書遺言の作り方として間違っていたとしても、中の遺言書が自筆証書遺言として有効なら、遺言としての効力が認められます。

特別な方式による遺言

特別な方式による遺言は、大きく分けると危急時遺言隔絶地遺言があります。

さらに、危急時遺言には、死亡の危急に迫った者の遺言船舶遭難者の遺言があり、船舶遭難者の遺言には、伝染病隔離者の遺言在船者の遺言があります。

それぞれの遺言の名前で何となく想像はできると思うのですが、特殊な状況でなされる遺言です。

ちなみに特別の方式による遺言は、遺言をした人が普通の方式による遺言をすることができることになってから6か月間生存すると効力がなくなります

死亡の危急に迫った者の遺言

危急時遺言とは、死期が迫って署名押印ができない人が遺言を残したいときに、口頭で遺言をして証人がそれを書面にする方式の遺言です。

この危急時遺言、特別な方式による遺言のなかでも比較的利用されることのある遺言なんですが、遺言をする人が瀕死の状態のときに作成されるので、本当に意識がはっきりしていたのかといった部分に疑問を持たれることが多く、後々争いに発展しやすい遺言といえます。

船舶遭難者の遺言

船舶遭難者の遺言とは、遭難した船舶の中で死亡の危急に直面した人が、証人に口頭ですることができる遺言のことをいいます。

もちろん、当事務所でも関与したことはないのですが、口頭で伝えるだけなので争いに発展しそうな匂いがぷんぷんします。

伝染病隔離者の遺言

伝染病のため、行政処分によって交通を遮断された場所にいる人が、警察1人と証人1人の立会いのもとで遺言書を作成することによって成立する遺言のことをいいます。

遺言書は、遺言をする人が作成しても、代筆でも構いません。遺言書には、遺言者、筆者、立ち会った警察官および証人のかかわった人の全員が署名・押印をしなければいけません。

この遺言もかなり特殊な状況下での遺言です。このような状況にならないことを祈りましょう。

在船者の遺言

船の中にいる人が、船長または事務員1人および証人2人以上の立会いをもって、遺言書を作成することがで成立する遺言のことをいいます。

立会をする人が警察官か船長かという部分と証人が1人か2人かということ以外は、伝染病隔離者の遺言と同じです。

検認と確認

ここまで紹介してきた遺言なんですが、遺言者が死亡した後にしなければいけないことがあります。

検認とは、家庭裁判所が遺言の存在と内容を確認する手続きをいいます。公正証書遺言以外の遺言はすべて検認が必要となります。

確認とは、家庭裁判所の調査官が証人に対して遺言書作成時の状況を確認し、本当に遺言者が本当に遺言を残す意思があったのかということと遺言の作成方法に問題がなかったかを確認する厳格な手続です。死亡の危急に迫った者の遺言は遺言者が死亡してから20日以内に、船舶遭難者の遺言は遺言者の死亡と遅滞なく行う必要があります。

確認と検認については、今後詳しく解説をできたらと思っています。

まとめ

実は、遺言にはこんなに種類があります。しかし、ほとんどの遺言が自筆証書遺言と公正証書遺言として作成されています。個人的には、公証人が作成するので信頼性が高く、検認も確認も必要ない公正証書遺言の作成がダントツでおすすめです