無効にならないための自筆証書遺言作成ガイド
[記事公開日]2017/02/21
[最終更新日]2017/06/21
自筆証書遺言とは、「遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。」(民法968条)と規定された遺言方法です。
この自筆証書遺言、お手軽に作成できる反面、作成方法が間違っているため、遺言として無効なものをよく目にする遺言でもあります。
今回は、せっかくの自筆証書遺言が無効にならないための注意点を解説したいと思います。
自筆ということ
自筆証書遺言というからには自筆で書くことが大前提となります。もちろんワープロ打ちも代筆もダメですし、添え手をしての遺言の作成についても判例では厳しい要件が求められています。
自筆での作成が難しい場合には、公正証書遺言の作成を検討するべきだと思います。
「添え手」に関する要件
昭和62年10月8日の最高裁判所の判決では、「遺言者が証書作成時に自書能力を有し、遺言者は添え手をした他人から、単に筆記を容易にするための支えを借りただけであり、かつ、添え手をした他人の意思が介入した形跡のないことが、筆跡のうえで判定できる場合には、「自書」の要件を充たすものとして、有効であると解するが相当である」とし、かなり厳しい要件を設定しています。
遺言書のタイトル
遺言書のタイトルが必ずしも「遺言書」でなくてはいけないという決まりはないのですが(テレビで「遺言状」なんて書き方も見た気がします。)、だれが見ても遺言だと分かるように「遺言書」とするのが無難でしょう。
日付
複数の遺言書が存在し、その内容に両立できないものが含まれている場合、両立できない部分については後で作成されて遺言が有効となります。なぜかというと、いったん遺言書を作成した後に気が変わることもあるので、最後の意思を尊重すべきだからです。また、遺言者が遺言書を作成した時点で、遺言能力が認められる年齢(15歳)であったかも日付の記載がないと分かりません。
これらのことから、遺言書を作成した時期は、とても重要な意味をもつと言えます。
では、日付の記載はどの程度まで求められるのでしょうか。
ずばり、「年月」だけでなく「日」までも特定できないといけません。具体的には、「平成何年何月何日」や「西暦何年何月何日」といった記載のほか「満何歳の誕生日」のような記載であってもよいとされています。
あまり深く考えず、作成した年月日を書き忘れないように注意していれば問題ないと思います。
ちなみに、「平成何年何月吉日」という記載は、「日」が特定できないことから不適法とされています。
氏名の自書
氏名を自書することは、本人の同一性を確認するために記載が求められているので、だれが作成したか特定できるようであれば、氏または名の一方だけの記載や、ペンネーム・通称などの記載でも有効とされています。
とはいっても、戸籍上登録されている名前を素直に書いた方が無難です。
押印
これも本人の同一性を確認するための要件なんですが、実印でも認印でもよいですし、拇印やそのほかの指での押印しても適法とされています。
認印よりも実印での押印の方が、後々争いになりにくいのではないでしょうか。
数葉にわたる遺言書の間に契印は必要か
一通の遺言書が数葉にわたるときでも、その数葉が一通の遺言書として作成されたものであることが確認できる場合、その一部に日付・署名捺印がされていれば有効です。また、その間に契印がなくても問題ないとされています。
封筒に入った遺言書の押印
遺言書の本文の氏名の横に押印がされていなかったとしても、この遺言書を入れた封筒の封じ目に押印がされていれば、「押印」の要件は充たすものとされています。
まとめ
自筆証書遺言の作成方法について解説をしましたが、これらはあくまで作成方法についてなので、内容については触れていません。つまり、自筆証書遺言を作成する際の最低限のルールと考えてください。
ここから、実際に預貯金や不動産の名義変更に使えるものを作成するとなると、一般の方ではなかなか難しいのかもしれません。
しかも、自筆証書遺言の作成には、公証人や証人の立会いを求められていないため、本当に遺言者の意思に基づいて作成された遺言書かどうかが争われることが往々にしてあります。
この自筆証書遺言のデメリットをほぼカバーしているのが公正証書遺言です。
次回は、公正証書遺言について解説をしたいと思います。
「遺言とは」