困っている夫婦

不動産の相続による名義変更には期限がありません。しかし、期限がないからといって放置していると思わぬ事態に陥ってしまうことも考えられます。

不動産の相続による名義変更を放置していた場合に起こりうる事態を架空の家族である法務家を例に、事例を分けて紹介したいと思います。

相続人の一部が死亡した

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法務太郎さん夫婦は、その長男である法務一郎さん夫婦と同居していましたが、ある日法務太郎さんが亡くなってしまいました。

法務太郎さんの相続人である法務花子さん、法務一郎さん、法務二郎さん、甲野三郎さんが集まり、法務太郎さんの財産である自宅をどうするかを話し合いました。

結果、同居している法務太郎さんが自宅を相続するということで話がまとまりましたが、遺産分割協議書の作成はせず、不動産の名義変更も行いませんでした。

その後、三男の甲野三郎さんが亡くなってしまった場合に、甲野三郎さんの相続人である甲野清子さんが法務一郎さんに甲野三郎さんの相続人としての権利を主張し、自宅の所有権の代わりに金銭での清算を求めてきたとします。

このような場合、法務一郎さんはどのような立場に置かれるのでしょうか。

遺産分割協議書を作成していなくても遺産分割協議は成立します。しかし、遺産分割協議書を作成しておかなければ、遺産分割協議の成立を証明することが難しくなります。

さらに、遺産分割協議が成立したのであれば、早急に不動産の名義変更をしておくことが、争いの原因を断つことにつながるでしょう。

今回のケースでは、法務一郎さんが遺産分割協議の成立を主張したとしても、法務花子さんや法務二郎さんの証言以外には、証拠がありません。また、不動産の名義変更には、原則として、法務花子さんと法務二郎さんのほかに、甲野清子さんやその子ども達(瞬くんと恵ちゃんは未成年なので厳密にいうと特別代理人の選任が必要です。)の署名と実印での押印がある遺産分割協議書とそれぞれの印鑑証明書が必要となります。

甲野清子さんが納得をすれば問題ないのですが、甲野清子さんが認めないということであると、争いを避けることは難しいでしょう。

「わが家に限って...」という考えは危険です。

相続関係のトラブルは、事前に予想ができているものもありますが、想定外の事情により巻き込まれてしまうケースもあります。予想ができているのであれば、事前の対策をすることができるのですが、想定外の問題が発生したときに何ら対策をしていないと、取り返しのつかないことになりかねません。

そして、だれがどの財産を相続するかということは、相続が発生するまで家族であっても話す機会があまりありません。それぞれの考えを相続が発生したときに初めて知るということもあるでしょう。そんなときに相談者の方の口から「あんな奴だとは思わなかった。」というセリフが出る場面に立ち会うこともしばしばです。

そういう意味では、相続の対策は親族関係を円満に保つための対策ということができます。

相続人の一部が認知症になってしまった

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上記の事例と同様、法務太郎さんが亡くなってしまった場合、相続による不動産の名義変更を行う前に、法務太郎さんの配偶者である法務花子さんが認知症になってしまったとします。

このような場合、不動産の名義変更をするためにはどのような手続きが必要となるでしょうか。

認知症と一口に言ってもその程度は様々ですが、法務花子さんの認知症が保佐もしくは成年後見相当であった場合、保佐人もしくは成年後見人を選任しなければ遺産分割協議をすることができません。

保佐人や成年後見人は、遺産分割協議をするために選任の申立てをしたとしても遺産分割協議が完了したことで職務が終了するわけではありません。つまり、成年後見人は遺産分割協議の成立後も法務花子さんの財産を管理し続けるため、法務花子さんの財産から成年後見人の報酬を支払い続けなければいけません。

相続人の一部が行方不明になってしまった

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上記の事例と同様、法務太郎さんが亡くなってしまい。相続による不動産の名義変更を行う前に法務二郎さんが行方不明になってしまったとします。

このような場合、不動産の名義変更をするためには、どのような手続きが必要となるでしょうか。

まず、考えられるのが不在者財産管理人の選任を裁判所に申し立て、選任された不在者財産管理人との間で遺産分割協議を行う方法です。しかし、この方法による場合、不在者財産管理人の報酬とするために高額な予納金を裁判所に納めなければいけません。

次に考えられるのが、失踪宣告の申立てをして、その審判が下された後に、法務二郎さん代わりにその相続人である法務定子さんとその子ども達(この時点では、美幸ちゃんと翼くんは未成年なので、厳密にいうと特別代理人の選任が必要となります。)との間で遺産分割協議を行なう方法です。しかし、失踪宣告は、普通失踪は不在者の生死が不明になってから7年間、特別失踪は危難が去ってから1年間が経過しなければすることができません。つまり、この方法の場合、実際に遺産分割協議ができるまでにかなりの時間を要することになります。